2024.08.19

映画字幕翻訳家 戸田 奈津子さんが語る:仕事の流儀

とあるトークイベントで、映画字幕翻訳家 戸田奈津子さんのお話を伺った
特に印象深いエピソードを多少盛っているかもしれませんが(笑)
今回は一流翻訳家の姿を回想録として留めてみました。

戸田奈津子さんと言えば、トム・クルーズというほどイコールで繋がるほど
長いお付き合いをされているのは有名な話。
誕生日が7月3日と同じ日で、毎年、誕生日の3日午前中には、盛り沢山のお花が自宅に届けられるのだそうだ。
仕事でNYにいる時も、宿泊先にまで届けられるというのだから
よほどVIP扱いされているに違いない。

戸田さんが最初にトム・クルーズ主演の映画翻訳を手掛けたのは
1992年劇場公開の「遥かなる大地へ」 この映画のヒロイン ニコール・キッドマンとトム・クルーズが
のちに結婚することになったのは、またまた有名な話。
この時すでに、「トップガン」は大ヒット後の事で、2022年続編の「トップガン マーヴェリック」
の翻訳を戸田さんが担当した。
トム・クルーズ来日には通訳としていつも同席していた戸田さんでしたが
今回は辞退したいと直接トムに伝えたそう。
―・「さすがに、80才過ぎて通訳するのには、だって固有名詞とかパッて出てこなくなってしまって
   彼は、インタビューも一所懸命にするので、それでドッジったら申し訳ない」・―
最初は驚かれたそうだが、戸田さんの思いを受け止めたそうだ。
でも、マーヴェリックのプレミア上映会には戸田さんも参加し、この時一緒に劇場で映画も鑑賞する事に
―・「彼は編集も立ち会ったり何度も映画を見てるはずなのに、一般客に交じってゲラゲラ笑ったりする
   最後のシーンに出てくる飛行機を指さしてThat’s my Planeって
   飛行機が好きだから何機も持っているんです」・―

戸田さんが映画の翻訳を手掛けられる期間として制作側からの猶予は約1週間、長くても10日ほど
正直制作スパンが短くてびっくり!
年間50本もの映画翻訳を手掛け今まで1500本以上の作品に携わってきた。
すごい、集中力!

特に今回の「トップガン マーヴェリック」のような海軍の軍事用語では自衛隊の元ジェネラルな方に
アドバイスを頂いたりして、パイロットの方が見てもおかしくない言葉を選ぶ、
消防士の映画でも
その筋の方に見てもらって違和感のない翻訳をつけているそう。
―・「翻訳をしている時は、頭の中でお芝居をしています。トムになって、演者のあらゆる人になって
  セリフは感情の裏付けが必要なんです。」・-
戸田さんはマーヴェリックの翻訳後に自衛隊の基地で実際に映画で使われた
同機のコックピットに座らせてもらう経験も出来たという。
―・「私には、観客から時間とお金を払って観てもらう。その責任がある。」・-

とにかく、トム・クルーズはファンを大切にしている、レッドカーペットで握手やサインを求めたら
最後の一人まで付き合う人、常に24時間映画の事を考えて次は何を作ろうか?と
戸田さんが、驚くほどサービス精神に溢れている。

―・「だからね、皆さん。映画を劇場に行って観てください。
   監督も演者も現場の人たちも、この画面で見るために作っている、
   迫力のある音で画面で見るために作っている
   だから、こんなちっちゃい(スマホ)画面で早回ししてみるなんて、作っている人に失礼ですよ。
   映画が好きなら、作った人に敬意をもって劇場に行って観てほしいですね」・-

通訳は引退したそうだが、翻訳は数を抑えながら作品に携わっていくそうです。